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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)11175号 判決

原告 新橋和夫

右訴訟代理人弁護士 宮文弘

被告 石井勲

同 鈴木了平

右両名訴訟代理人弁護士 旅河正美

同 奥山宰紳

主文

被告らは各自原告に対して金二二、〇八〇円及びこれにつき昭和四二年一一月一日以降年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二〇分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

一、当事者の申立

(一)  原告は「被告らは各自原告に対し金五〇〇、〇〇〇円並びにこれにつき昭和四二年一一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言

(二)  被告らは、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決

二、原告の請求原因

(一)  原告は昭和四二年五月三一日被告鈴木並びに訴外公正興業株式会社と連帯債務者として金五〇〇、〇〇〇円を弁済期日を同年六月一五日と定めて貸渡したが、被告鈴木らは弁済期日にこれを支払わなかった。

(二)  被告石井は同年六月一五日右債務を保証し、被告両名は右債務を同年一〇月三一日に支払うことを約した。

三、被告の認否並びに抗弁

(一)  請求原因事実を認める。

(二)  被告鈴木は原告から本件金額を借受ける際、昭和四二年五月三一日から弁済期である同年六月一五日迄の一六日間の利息として金五〇、〇〇〇円を天引され、金四五〇、〇〇〇円を受領したに過ぎないので、利息制限法第一条の年一割八分の制限を超過した部分は元本支払に充当すべきである。

受領額金四五〇、〇〇〇円を元本として一六日間の法定(年一割八分)利息は金三、五五〇円となるので、これを控除した残余利息四六、四五〇円を元本に充当すると残元本は金四五三、五五〇円となる。

(三)  被告鈴木は原告に対し次の反対債権を有していた。

(1)  被告鈴木は原告に対し昭和四二年五月一八日(イ)額面金六〇〇、〇〇〇円、支払期日同年八月二二日、支払地東京都港区、支払場所東京都民銀行本店、振出人訴外株式会社エスタイトの約束手形一通を割引のため交付し、これを引換に(ロ)額面金三〇、〇〇〇円、支払期日同年八月二二日、支払地東京都大田区、支払場所東京産業信用金庫蒲田支店、受取人白地、振出人訴外大協化学工業株式会社の約束手形一通及び現金二九五、七六〇円を原告より受領したが、その後右(イ)の手形割引利息の計算違が判明したので、同年五月二五日金三、〇〇〇円を原告に返済した。

(2)  被告鈴木と原告が相互に授受した前記手形のうち、被告鈴木の(イ)手形は期日に決済されたのに原告の(ロ)手形は不渡りになったので、同被告は止むなく同年八月二三日(イ)手形の振出人である訴外株式会社エスタイトに金三〇〇、〇〇〇円を返済し、(ロ)手形を受戻した。そこで、原告に対し被告鈴木は右手形金三〇〇、〇〇〇円及びこれにつき昭和四二年八月二三日以降年五分の割合による遅延損害金請求権を有する。

(3)  被告鈴木は昭和四二年九月二〇日訴外睦平商事の原告に対する損害賠償請求権金一一五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月一日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金請求権につき債権譲渡を受けた。

(四)  被告鈴木は昭和四二年九月三〇日付内容証明郵便をもって原告に対し右反対債権((三)(2)(3))をもって、原告の本訴請求債権と相殺する旨の意思表示をした。その計算関係は次のとおりである。

(1)  金三〇〇、〇〇〇円及び遅延損害金(昭和四二年八月二三日から同年九月三〇日迄)金一、六〇二円

(2)  金一一、五〇〇〇円及び遅延損害金(昭和三六年一月一日以降昭和四二年九月三〇日迄)金三八、八〇〇円合計四五五、四〇二円

(3)  原告の本訴請求残額金四五三、五五〇円及び遅延損害金(昭和四二年六月一六日から同年九月三〇日迄年五分の割合)六、六四七円

合計四六〇、一九七円

右相殺により両債権は対等額で消滅するので(3)の残額は金四、七九五円となる。

従って、原告の本訴請求権は右残金四、七九五円とこれに対する昭和四二年一〇月一日以降年五分の割合による遅延損害金の限度においてのみ残存する。

四、原告の認否

(一)  被告鈴木に対する本件貸付の際金五〇、〇〇〇円を昭和四二年五月三一日から同年六月一五日までの利息として天引したことは認める。しかし、その後弁済期が同年一〇月三一日まで延期されたので、右天引利息金五〇、〇〇〇円は同日までの利息として計算されるべきである。

(二)  仮りに右が理由がないとしても、制限利息超過部分を元本充当した残額金四五三、五五〇円に対する昭和四二年六月一六日以降の損害金は右期限内の約定利率の法定内年一割八歩の割合となる。

(三)  被告主張の相殺に関する内容証明郵便を受領したことは認めるが相殺に供した反対債権の存在は否認する。

五、〈省略〉

理由

一、請求原因並びにその貸付に当たり、原告が貸付日である昭和四二年五月三一日から弁済期である同年六月一五日までの利息として金五〇、〇〇〇円を天引したことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで、右天引額につき利息制限法第一条の法定限度年一割八分を超過した部分は元本に充当すべきであるから、昭和四二年六月一六日の時点における元本は金四五三、五五〇円となること計算上明らかである。

二、被告らの相殺の抗弁につき判断する。被告鈴木から原告に対し昭和四二年九月三〇日付内容証明郵便で相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。そして〈証拠〉を綜合すると次の事実が認められる。

(一)  被告鈴木は同年五月中頃、同人の友人が経営している訴外株式会社エスタイト振出の額面六〇〇、〇〇〇円の約束手形一通(イ)を原告に割引依頼したところ、同人より同趣旨のもとに現金約三〇〇、〇〇〇円と原告が関係している訴外大協化学工業株式会社の額面三〇〇、〇〇〇円の約束手形一通(ロ)の交付を受けた。そして、その際相互に授受した手形については、各自が責任をもつ旨約束した。

ところが、被告鈴木が原告に交付した株式会社エスタイト振出の手形(イ)は期日に決済されたのに、原告が被告鈴木に交付した大協化学工業株式会社の手形(ロ)は不渡りとなったので、同被告は止むなく昭和四二年八月二三日株式会社エスタイトに現金三〇〇、〇〇〇円を支払ってその損害を補填した。

(二)  被告鈴木は訴外睦平商事の代表取締役であるが、昭和三五年頃同会社が当時原告が代表取締役をしていた三共物産株式会社に手形による融資をしたところ、その未決済額一一五、〇〇〇円につき、同年一二月二八日、右会社が支払不能のときは原告個人において支払う旨約した。

そして、右三共物産は倒産したまま支払不能となって、原告は別事業の経営を始めた。睦平商事は原告に対する前記債権金一一五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月一日以降完済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金債権を昭和四二年九月二〇日被告鈴木に譲渡し、その旨を同年一一月二二日付内容証明郵便をもって原告に対し通知した。

以上の事実が認定され、同認定に反する原告本人尋問の結果は信用できない。もっとも、前掲乙第四号証によると原告が三共物産株式会社の前記債務を引受けるについて、その文面上は「右会社にて支払不能の場合は、小生事業成功の時に個人にて御返済申上げます」旨の記載がなされているけれども、同会社にて支払不能であること前記認定のとおりである以上、原告の被告鈴木に対する貸金債権の反対債権として相殺に供する関係では、右文面の「成功」の意義を吟味するまでもなく、これを肯定すべきである。他に右認定に反する証拠はない。

これらの認定事実に照らすと、昭和四二年九月三〇日になされた被告鈴木の相殺の意思表示によって、同人の原告に対する反対債権(一)金三〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四二年八月二三日から同年九月三〇日までの年五分の割合による遅延損害金一、六〇二円(二)金一一五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月一日以降昭和四二年九月三〇日までの年五分の割合による遅延損害金三八、八〇〇円合計金四五五、四〇二円と原告の被告らに対する本件貸付残債権金四五三、五五〇円及びこれに対する昭和四二年六月一六日以降の損害金債権が対等額で相殺に供されたことになる。

三、そこでなお検討を要するのは、原告の本件貸付金に対する当初定められた弁済期日である昭和四二年六月一五日の翌日以降の遅延損害金をいかなる割合とみるべきかである。

〈証拠〉によると期限後の損害金の割合については別段明示の取り決めはされていないこと明らかである。しかしながら本件貸付に当たり、金五〇、〇〇〇円を期日までの一六日間の利息として天引したこと前記のとおりであるから、元金五〇〇、〇〇〇円に対する約定利息の割合は年約二四割弱となり、これに利息制限法を適用すると、期限内の制限率は年一割八分である。従って、当事者の意思としては期限後の損害金について別段の定めがなされていないけれども、少くとも利息制限法の範囲内の約定利率、すなわち年一割八分とする趣旨に解するのが相当である。

そして、天引利息を利息制限法所定の利息に引き直し、元本充当した結果、弁済期の翌日である昭和四二年六月一六日の時点における元本残額は金四五三、五五〇円となるから、これに対する同日から被告鈴木が前記反対債権でもって相殺の意思表示をした同年九月三〇日まで(一〇七日)の年一割八分の割合による違約損害金は金二三、九三二円となること計算上明らかなので、前記相殺の結果、右合計金四七七、四八二円から被告鈴木の反対債権額金四五五、四〇二円を差引くと残金は金二二、〇八〇円となる。

四、原告の本訴請求は右のとおり被告らに対し金二二、〇八〇円及びこれにつき昭和四二年一一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるのでその限度で認容し、その余を失当として棄却する。〈以下省略〉。

(裁判官 牧山市治)

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